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かくいう私も青二才でね

知ってるか?30まで青二才でいると魔法が使えるようになるんだぜ?

殻都市の夢 鬼頭莫宏


殻都市の夢 (F×comics)

あの有名な「ぼくらの」の人の短篇集の話をしていこうかな?

人の言葉を借りれば、「幸せの形が違う」のだろう。幸せの形が違ってくるからこそ生じる喜劇・悲劇…あるいはそうなりたいという「夢(願望)」?そういう事に対してスポットを当てて描かれているマンガ。

いろんな解釈があると思うけど、この場合の「殻」は「脆さ」の具現化なんだと思う。殻の中にいるから守られてること、殻の中にいるから壊れないこと、殻の外では受け入れられないこと…そういう「脆いモノ」を守ったり積み上げたりする人の営み。それがこのマンガの描いているもの。

  • ありふれたテーマだけど、じっくり読ませる技術

僕の趣味なのか、オタク的感情なのかは僕はよくわからんが、な・ぜ・か!!こういう「歪んだ幸せを肯定する・見せつける・対比することで既存の価値観を懐疑するパラドックスを描く」みたいな短編集はそこそこある。

それは今、創作者になって本を出すような年代のオタク(もしくはそういう人達にシンパシーがある人)が「オタク的な価値観がポピュラーじゃない時代」を知ってる(体験してる)から「幸せの形」というテーマはやりやすいのではないか?

わかりやすく大雑把な極論を書いてみようか。
・戦中・戦後の人はご飯が食えて、命があればとりあえずは幸せだったの。(その名残からか、小さいときに飢えたり貧乏した経験持ってる人は「飯を残すな」としつこく言うの!太ってる人・大柄な人をステータスだと感じるの。)

・今の40〜60ぐらいの戦後からバブルぐらいの人ってテレビへの執着がやたらとすごいの。フィギュアスケートとかワールドカップの応援を自分のこと以上に熱心に応援したりするの。(太ってたり、大柄だったり、男前な人がかっこいいのではなく、むしろアスリート的なハニカミ王子・ハンカチ王子がおすきなんです。)

・50〜30前後の硬派なオタクの人は三度の飯よりも好きなものがあって、しかもそれはテレビですらないの。しかも、詳しい人はやたらと詳しいの。詳しいんだけど、凄さが一部の人にしかわからないから、やたらと高い自意識を持って自分達を「貴族・エリート階級」だとさえ思ってるの。(二次元嫁が…)

・25以下の学生時代にニコ動からオタク入りした人はそんなに求道的なオタクって訳じゃないの。前時代の人ほど「情報」にも「マニアックで求道的なまでのコンテンツ研究・考察」にも興味もないの。(二次元嫁を語ることが好きなだけで、すごくメタな(俯瞰した)目線の持ち主。)

もっと象徴的なのはイラストだよね。江戸時代までの美人画と、近代と…23の私からすれば、70・80年代のタレント見ても「これで化粧してるの?」と感じる。かと言って、今の大学のミスコン(のちのちアナウンサーになって美貌を売りにする方々)見ても「同じ顔・同じ髪型をしてるなぁ…」としか思えないのよね。もうちょっと言うと「そんな格好をして可愛いと思ってんの?いや、可愛いと思ってたとして、顔だけで近寄ってくる男にちやほやされて、性的愛玩物として見られて何が楽しいの?」って僕は大学のミスコンを完全に見下してる

あ、反論ある方どうぞ?よっぽどひどいもんじゃない限り、コメント欄でずっと載せ続けますから。

その幸せの違い、娯楽に対する楽しみ方や趣向、目線のズレ…あるいは「好きだけども、役に立たない事への執着」を人は危険視したり、疑問視して「関わりたくない」という拒絶と、「なんでそんなことになってるんだろう」という好奇心。

この作品は奇行に対する多面的な立場をしっかりと描くことで「どうしてそんなことをやったか」という奇怪な行動をうまく説明している。

短編集の1つ目なんか「私が殺されている」という不思議な台詞が始まるが…そういう奇怪なセリフ。その奇怪な現象を発するに至った行動。それらを伏線として話を大きく広げるのですが、それらを見事に回収する。それも多面的な視点をもって回収する。一つは当事者から。もう一つは他人から。(他人の数を増やせば、事の顛末はその数だけ結論が増える。それによって奇行を多面的に考察している)

  • 浮ついた感じがないところが好き

だけど、その反対もある。それは「疑問形で終わらせてしまう」「あえて説明しない部分を作る」というところも残してる。この短篇集の独自色は「問いかけ」を残して短編を終わらせているところ。

1つだけソフトにネタバレするかな?読む楽しみを奪わない程度に回りくどくネタバレしようか。

最近僕の中で引っかかってるブログに「脳髄にアイスピック」(犬紳士)さんのクジラックスの『ろりとぼくらの。』がしんどい。 - 脳髄にアイスピック クジラックスの『ろりとぼくらの。』がしんどい。 - 脳髄にアイスピックって言うのがあるんだよね。

上の記事の論旨を本文から抜粋するとこんな感じ。

「だからさ、エロマンガにしろ官能小説にしろAVにしろ、何が求められているかっていうと、結局は『オレに気持ちよくオナニーさせろ』じゃないですか
「いや、だってエロマンガなんてのは基本的にファンタジーじゃないですか。もちろん、小学生とセックスしたらあかんってのはみんなわかってますよ。けど、それでもオナニーの時ぐらいはファンタジー世界に浸って気持ちよくなりたいじゃないですか。それなのに、そこにリアルを持ち込んで誰が喜ぶんだよって話ですよ。『現実に戻れ』ってか、旧劇場版か、庵野気取りか、お前はって話ですよ」
「ほら、町田ひらくってのは、絵柄からしてそういう安易な性的妄想を拒んでるじゃない。『お前小学生と簡単にセックスできるとか思ってんじゃねえぞ』っていう」
「それだけでも充分苦いんですけど、単行本の巻末には、『ろりともだち』の描き下ろし番外編が入っている」
「いや、エロ描写ほぼ皆無で、本編でレイプされる女の子たちの平穏な日常が描かれている」
「そりゃ、そういうのがあった方が逆にシコれるって人種もいるけどさあ、普通は引いちゃうよ。踏み絵か? 『ロリコンだったら、これで抜いてみろや』っていう踏み絵なのか?」

…まぁ、犬紳士(id:Lobotomy)さんの気持ち悪いボケをスルーしながら割といいこと言ってる部分だけを抜粋しました。(文体も思想も態度も僕よりぶっ壊れてるけど、鋭い方だとは思います。「街で会ったら威圧したい村民」第4位の嫌いさですけど(笑))

威圧したいランキングはどうでもいいとして、マンガの話に繋げていこう。

あらゆる大衆的なフィクションにそもそも論を入れていく短編集はあるんです。それこそ犬紳士さんの言うように「気持ちよく読む・楽しむために触れない方がいいそもそも論」に触れてしまう作品って意外と多い。
「ろりとぼくらの」はエロマンガだけど、「竜の学校は山の上」という短篇集だと(仮想の生き物・存在としての)ファンタジーに社会性を持ち込んでいる。「殻都市の夢」の場合は『ゲーム感覚』に対して、そもそも論…平たく言えば「リアリティ」が持ち込まれている。

例えば、「竜の学校は山の上」の話をすると、勇者という聖人君主な存在に人間味を持たせている。例えば、魔法を使ってなければおっさんにも負けてしまう優男で、胡散臭く思われる。例えば、魔王と戦う時に誰も味方してくれなかったこと、平和の世界を牛耳って意に反することをされている現実を疎んでいる。そんな勇者の姿を描いている。

「登場人物の負の感情を無視する」という意味で殻都市も非常に似てる。ゲームのコマとして扱われている少女が。殺されるために生まれたり、観察対象としての少女が想像を越えるような行動をとる。その当事者の発言や行動が余韻を残してる。これはがバットエンドで頭を抱えながら考えるパターンもあれば、仰け反るように「うーん、その手があったか」と唸りたくなるようなものもある。

浮ついてないんだよね。やればできるでもないし、悪意があって…ってわけじゃない。いや、むしろ悪意よりも「押しつけの善意を貰ったはいいけど、あなたと私は幸せの形が違うからとてもひどい暴力に感じます」というのがこの短編の難しさ。

「コミュニケーション・ブレイクダンス」なんて曲があったけど、あんな感じのもどかしさあるよね。言葉借りるなら【目と目で通じ会えればこんなことないのに…】と。

目と目で通じ合えない「ディスコミュニケーション」「空気が読めない(あるいは読めることで与えられる絶望)」はオタクに人気のある作品(具体的にはエヴァ・押井守作品など)で議論になるけど、これもそういう作品になるんだよね。

それが絶望かというとそうでもないんだよね?

逆に隠したいものがあったり、「背徳心の中で幸せの形を作りたい」人は目と目で通じ合えたら困るよね?あるいは、人間から「恥」の概念消え失せちゃうよね?嬉し恥ずかしの気持ちって結局は空気でしか伝えられないからね。

オノ・ヨーコジョン・レノンが名前を呼び合うだけのCDってあるけど、あれ実際に仲のいい異性とやってみ?だんだんとお互いの声に色っぽくなるから。(実話)(3年前)

関係ない話ばっかりするな?違うよ!「殻都市の夢」が楽しく読めるように書いてる。特に最後の20ページの理解を補助しうるように計算して話をぶれさせてる。

いや、殻都市だけじゃないな。この記事の意味がわかる人は押井守作品だって、エヴァンゲリオンだって楽しく見られる。社会論ぽく格好つけて言えば、「価値観の多様化ゆえに生じた矛盾と軋轢」「高度に情報化されたことによる非対称性」「人々が個人主義になったことで生じる合理の誤謬の複雑な絡み合い」…幸せの形とか、善意のすれ違い、得体をしれないものの恐怖は色んなところに転がってる。

こうやって文章にしてみると陳腐なことにしか思えないけど、これを相手に執着や情念が伝わるように描くことはむずかしいのよね…。

殻都市の夢 (F×comics)