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かくいう私も青二才でね

知ってるか?30まで青二才でいると魔法が使えるようになるんだぜ?

【オリジナル短編】ジョー・アカネのバレンタインデー


バレンタインなので、…短めの小説を書きたいと思います。普段、同人誌やアニメをどうこう言う側ですが、今日は私の記事を見ながらああだこうだ言ってもらえると、それが批判であっても嬉しい限りです。

お品書き
1、4か月前の話
2、3ヶ月前の話
3、今日の話

  • 放課後の3つの楽しみ

「クールなヤツには2種類いるんだ。1つは炎を知らないヤツ。もう1つはどこまでも自分の炎を内に秘められるヤツだ。…ジョー、お前ははどっちだ!!」(【エイリアンキラー=ジョー】 シュガー警部のセリフ)

私は前者みたい…。必要もないのに、そわそわしてる。帰宅への道を走ったことは今日が初めて。時間も準備も十分なのに、今日の私はそれが足りない気がしてる。

「はぁ…はぁ…」

驚いた様子で、私とすれ違う人は私が走るさまを見てる。普段は私もそっち側の人だが、今日だけは違うんだ。したいことがあって、言いたいことがあって、走ってるんだ!あー髪が邪魔!!切っとけばよかった。

(4ヶ月前)

中学生になると同時に隣の県から引っ越してきた私は疎外感を感じていた。いじめられるとか、そういうことじゃない。ただ、引越しをしたことで、人とは違うものが見えるようになった。

どこに行っても、楽しい人なんかいなくて、さも台本で打合せしたような代わり映えしない会話がクラス中に並んで…二学期の初めに窓際に席が変わってから、私は朝からずっと窓の眺めが一番仲がいい友達になっていた。
友達が居ないわけじゃない。居ないわけじゃないけど、飛び込んでいくことに気乗りしなかった。

人をあざ笑うほど中身がある人間じゃないが、私が中身のない人間だと思っている人と中身のない会話をすることもまた、いい気分がしないと思ってしまった。まして、楽しくないと思っているものを無理に笑えるほどに私は女子力が高くない。高くもなりたくない。
高い必要もないんだ。よく「大人になりたい」という人がいるが、それなら友達と別れて一人になってみるといい。それが、大人になるということだ。漠然としたイメージじゃない。引越した時に、お父さんに聞かされた。

「友達と別れるのは寂しいかもしれないが、それは訓練なんだ。自分の友達と同じ高校・同じ大学・同じ会社というわけにはいかない。パパだって、たくさんの友達を東京に置いてきた。今だって置いてきた。寂しいけど、新しい友達を作りながら、生きていかないといけないんだ。」

だけど、私の日常が全くつまらないというわけじゃない。放課後に3つの楽しみがある。
一つは掃除が終わったあとの一人っきりの教室。何をするというわけでもないのだが、そこで過ごす時間が好き。図書室で宿題して、読書してみんなが帰った頃に、教室に行く。 家が共働きで誰も居ないので、どっちみち一人で過ごす。だったら、教室のほうが好き。遠くから吹奏楽や、運動部が声・音を張り上げる姿を見たり、黒板の隅から隅まで絵を書いたり、読んでいる本をマネて小芝居をしたり…俗に言う「人には言えない趣味」だが、これが好きでたまらない。

一学期にこれをしていたら、二学期の初めに同じ階の演劇部の部長に見つかってしまった。これが二つ目。
文化祭前以外はあまり活動しない部活なのだが、文化祭が迫ると週3・週5と活動頻度を増やす。…話を作ったり、演出をするのが好きな人ばかり集まったため、1ヵ月後の文化祭では私が部員でもないのに、急ごしらえの主役に抜擢された。

三つ目は…帰り道にいる少年だ。

「むっちゃん、今日は何を読んでるの?」
むっちゃんこと六田豊君は小学校二年生。お父さんが職人さんで、家で金属を加工する音でうるさいから、いつも公園で宿題や本読みをしてる。(図書室は高学年の生徒が開けるから、時間が余るそうな…。)
「ジョー、いいところに来た。ここの宿題教えてくれる?」
計算ドリルだった。私にすればなんてことないものだが、子供特有の安定しない字で、間違えだらけの計算の後が書きなぐられていた。ちなみに「ジョー」と言うのは、私のあだ名。「城茜」という本名の「城」を彼は外国人の名前みたいに聞こえたから「ジョー」と呼んでいる。

「あかねって呼ばないと教えないわよ。」
だって、なんか「あしたのジョー」みたいで、いかついじゃない?ボクシングアニメだというぐらいの知識しかないけど。
「え〜ジョーの方がかっこいいよ。」
学校の先生にはむっちゃんぐらいの息子さんがいる人がいる。その人によれば、子供の夢はサメかウルトラマンか変身ヒーローなんだそうだ。まさか、私の名前を聞いて変身ヒーローと思ったのではないか…そんなことをおもうとちょっと不安だ。

私はむっちゃんの事が好きで好きで仕方がない。傍目にはムスっとしたマセガキなのだが、仕草や発想は子供そのもので…かわいい。初めに会った時は警戒心を持って睨んだり、逆に目を合わせてくれなかったり…俗っぽく言えば「ツンツン」してたが、最近は話しやすいお姉さんぐらいには思ってくれるようになって、宿題や読めない漢字を聞いてくれるぐらいになった。

「ところで、むっちゃん。再来週、文化祭で【エイリアンキラー=ジョー】という名前の劇をやることになったんだけど…見に来る?」
自虐ネタとしか思えないが、演劇部のメンバーの特撮好きがこれを考えてしまった。おまけに、私がむっちゃんの事を部長に語ってしまったがために「ハートをつかむにはこれしかないよ!」と力説され、勢い余って乗ってしまった。…部長は「おっさん萌え」だから、私が「小学生に惚れた」と言っても「人は皆、変態なのよ」と妙な説得力で、私の恋を応援された。

「行く、行く!」
むっちゃんは部長の期待通り、キラキラした目で食いついてきた。問題はここから。

「むっちゃん。明日から中学校に来て欲しいんだ。私、その劇の練習をしないといけないから、当分会いにいけないの。でも、宿題を教えてあげたいから中学校に来て。明日は迎えにきてあげるから、次からは自分で来てね。」
「うん!」
…部長と取引した通り、これで演劇部に期間限定で入部する事になってしまった。

  • エイリアンキラー=ジョー

「キャワウィイイイイイイイイイィッィィイッィィッィィッィ。ねぇ、あかね。私にも後で抱かせて〜。」
「部長、ショタは卒業したんじゃなかったんですか?」
演劇部の部長のノッポ女と、副部長の太めの男は双方ともネジがぶっ飛んだオタク。よくわからない用語を私の前でも、むっちゃんの前でも連発するし、奇声を上げるし…要するにキモい。

だが、むっちゃんを放課後に預かる部屋を提供してくれる事になったのは部長のおかげでだから、文句も言えない。

「あかね、これがあなたの恋)ry ソゲブ 」
「部長、友達です!!歳が離れてる友達です。」
「だが、あかね君。友達ならそんなベッタリと膝の上に置いて抱きしめたりしないのだよ?」
このメガネのおかっぱも演劇部の人。何でも、エイリアンキラーの脚本を書いたのは彼だとか…。
「そうなの?ジョー?」
「すごく仲がいいんです!むっちゃん、ジョー言うな!!」
「へぇ…ジョーって呼ばれるとあかね君はムスッとするのかね。」
「しませんよ!仲のいい友達には下の名前で読んで欲しいだけです!!」
「フフン。」

勝ち誇った部員達の目が私に突き刺さる。

「それで?部長。本当にいいんですか?部活がない日もこの部屋に来ても。」
「もちろん!私だって、ショタっ子が冬の寒い公園にいるのはかわいそうだと思うもの。」
「部長!」
「ゴホン。ただし、あかねちゃん。約束は忘れていないでしょうね。私があなたの恋)ry グハッ!!」
部長の腹にしてから、私が話す。
「わかってます。むっちゃんに勉強する場所と先生をあげて、私はむっちゃんのために劇作りをする。これでいいんでしょ?」
「ジョー…話がわかるヤツで助かるよ!!」
この…クソメガネめ!!
「あかねでいいですよ。この部屋にいる人は演劇以外では「あかね」って呼んでください。」

…副部長とメガネを中心に男性陣が
「え?いいんすか?」
…なんだ?何が起こってる?
「ええ!問題ないわよ。」
私が念を押すと、部員達からまたも勝ち誇った笑みでこちらを見た。部長は男達の呆れた態度を見て、頭を抱えながら
「それじゃ、衣装合わせをしてくるから、みんなは六田君の世話をよろしく。…あかね、こっち来て。」

ガラガラ…ピシャ!

「Yes!」「ツンデレで残念な後輩とか、心得すぎやろ!」「俺、姉御になら掘られてもいい!!」「六田坊、あんな美人を落としてるとか、よっプレイボーイ!!」

部長は男達のリアクションを予測して、
「くれぐれも、その子に変なこと吹き込まないように!!!」
「押忍!!」

(女部屋)
「あなたって、本当に「エイリアンキラー」かもね」
部長はボソリといった。
「何か?」
「こっちの話よ。あなたこそ、不満げな顔だけど、どうしたの?」
「なんで、あんなに喜んでたんです?」
あかねにとっては脚本よりも部員達がエイリアンそのものだった。だから、あの盛り上がりっぷりが理解できなかった。
「あの子達、私と部員の女子以外には女友達いないのよ。おまけにほとんどは苗字で呼び合うし、後輩の方が萌えるからあなたの方が点数が高いのよ?」
「萌えると言いますと?」
「あなたがむっちゃんに抱く感情と一緒。恋人的な好きと、キュートでかわいがりたい好き。その間の感情。」
「え!!私が部長に【先輩♡】とか言わないといけないですか?」
「あざといわね。喜ぶから、やってみたら?」
「嫌ですよ!!私はむっちゃん以外に私の膝に乗せる気はありません。」

(男部屋)
副部長は真面目だから宿題を教えていたが…宿題が終わってからというもの、メガネが世話役になってから話がおかしくなった。

「六田君は【ブラッドライダー】見てるかね?」
「日曜日の朝にやってる、ヤツだよね。メガネさんも見てるの?」
「僕はあれの大ファンなんだ。その前の【シュートライダー】や【レディーライダー】なんかも観てるよ。」
「レディーライダー?シュートライダーはわかるけど…」
「面白いから、見せてあげよう。宿題をがんばった君へのご褒美だ。」

学校にあるテレビにピンク色のヒーロー服の女が戦う映像が映る。
「メガネ!!お前、面倒を見てくれといったが…。」
「副部長!お言葉ですが、あのぐらいの子にはこれが一番です。あのぐらいのときから良質な特撮を見せて、鋭敏なオタク感覚を付けて置けば…」
「いや、お前が見たいだけだろ?」

…あかねが別室で演技指導・演出指導をしてる間、代わる代わるアニメ・特撮を交代で持ってこさせると言うオタクの英才教育が施されるのだった。


(当日)

「エイリアンめ!!C-POP(コスモ・ポップ)なんて言いながら、アレは電子ドラックじゃないか!!お前達は地球人を洗脳するためにその音楽を聞くと、依存症になる音を作って、地球中にばらまいたな!!」
「フハハハハ。貴様には、特別に【コスモハンド】をお見舞いしてやろう!!」
「そ、そんな卑猥な形のヌルヌル触手がジョーに通じると思ってるのか!!」
「触られた瞬間にお前の感覚は活発になり、これがほしくてたまらない顔になるんだ。」
「イヤーーーー(うそ…リハーサルのモノよりもヌルヌルしてるし!!!)」
「フハハハハ、どうだお前も、他の地球人のように悦楽の前に沈むがいい!!(※完全に本音)」

あらすじ・人間の生体を把握した宇宙人は人間を洗脳する音を作った。宇宙貿易商に身分を偽装して調査に乗り出したジョー・アカネはメガネ演じる8本の触手を自在に操るヌルヌル星人が犯人だと突き止め、逮捕に乗り出す。しかし…他の地球人が逮捕に失敗したのと同様に触手の癒し効果の前に屈しそうになるが…

「頑張れ!!ジョー!!!」
子供の声が聞こえた。…メガネと部長がむっちゃんに「ここで応援して」という台本を見せておいたものだ。すると、舞台の端から副部長が出てくる。(ちなみに副部長は、ジョーの上司役で「シュガー警部」)

「劇場のみんな!このままジョーが負けてしまったら、地球がヌルヌル星人とコスモ・ポップに洗脳されてしまう。みんなでジョーを応援するんだ!!!」

\ガンバレ!!ジョー!!!/

「ハァハァ・・・。(めっちゃ、ヌメヌメするじゃねーかよ!!)」
あかねは後ろから見守る部長を観る。
「(ごめんごめん。)」←手を合わせてるけど、明らかにさっきまで笑い泣きしてた。
「ヌルヌルさせちゃうぞーーー!!!(本音)」

「みんな、もう一回だ。」
\ガンバレ!!ジョーー!!/

あかねはやり返しても良いと台本に書いてあるところに来ると、手加減無しで着ぐるみにマウントポジションを取って、頭を振る、殴る!!!!
「フ−フー(#・∀・)(※マジギレ)」
「ギャーア、アハーン♡(※痛がってるけど、そう聞こえない。)」

「あかね…怖い。」
六田は目を伏せながら、あかねが怒ってるところを見ていた。

ちなみに、劇は保護者と先生からは最悪の評判だったが、生徒からは最高の評判だった。

  • バレンタインの話

劇の後に告るどころか、むっちゃんは怖がって、しばらく口を聞いてくれなくなった。

「この、ダメガネ!!なんで、いつもよりヌルヌルしてたんだよ!!!」
「ふぁ、ファンサービスですよ?…それに、あかねさんだって気持ちよかったんじゃないですか?」

あの芝居以降、あかねはメガネにだけは高圧的な態度をとるようになった。
「それだけじゃねーよ!てめーがむっちゃんにいっぱい特撮を見せたせいで、時々奇っ怪な必殺技をかけてくし…」
「スーパーイナズマキックだ!!アレはれっきとした由緒ある必殺技でな…ゲホッ」
メガネの膝蹴りが腹に命中。イナズマキックについて雄弁に語ろうとしていたメガネは気絶。
「あかね…怖い。」
「大丈夫よ〜むっちゃんは悪くないですからね〜。」
あれ以降、日に日に修復しているけど、未だに「あかね…怖い」と言われる。

見に見かねた部長が「男達のヴァカンス」という怪しげな本を置いて、あかねに声をかける。
「ちょっと来て話があるの。」

…部長はチョコを渡すことを提案してきた。
「そう言えば、バレンタインでしたね?」
「チョコと一緒に気持ちも…というベタな手だけど、やっぱりそれがいいんじゃない?」
「異論はありませんよ。」

その日の帰り、私はむっちゃんに言う。
「明日は私の家に連れていってあげる。渡したいものがあるんだ。だから、一度学校の荷物を置いて、公園に集合。良いね?」
「…うん。」

やっぱり怖がってるのか、無愛想な返事しかくれなかった。こうなってから気づいたことだが、ぶっきらぼうでも表情や機嫌みたいなものは伝わる。膝の上に座って抱きしめていても安心できる時と、拒絶されそうで怖い時と…その両方を感じるようになった。前は膝の上に抱えると、むっちゃんはいつも私の手を拒むこともなく、落ち着いた素振りだった。それどころか、立てなくなってしまうぐらいむっちゃんが安心して座ってる時もあった。


(バレンタイン当日)
そのあと、私はむっちゃんを家まで送ってからスーパーで板チョコを買って、砕いてとかして、台所の奥深くに眠るハート型の型に流し込んで寝た。できあがったチョコの姿を確認すると、学校に行った。部長の言葉が頭に過ぎる。

「バレンタインデー心得①・手の込んだモノ・前衛的なモノは避け、あくまでも形式美や手段としてチョコレートを用いるべし。あなたが奉仕したいのは芸術ではなく、あの子なんでしょ?」

学校からその公園は見えないけど、外を眺めてると今日はやけに子供が目立つ。うわ…考えれば考えるほど、焦る。

「城さん、城さん!!」
「は…はい!!」
「ボートしているところ申し訳ないが、教科書を読んでもらないかな?そこの【恋は創作として捉えた彼の発想は】からだ。教科書の179ページの…5行目だ。」


「今日のハンターはぼーとしてる。ひょっとして、コスモポップでも聴いてるんじゃねーの?」
昼休みには男子からも揶揄されていたが、言い返したりボコボコにする気力すらなくなっていた。…わ、私が緊張してるの?それも人の話が聞こえないほど、周りに構っていられなくなるほど?…私って「こんな人」だったかしら?またもや、部長の言葉が頭に過ぎる。

「バレンタインデー心得②。相手のことを愛おしいと思えば、なんだってできちゃうものよ!だから、緊張しようと、気まずい空気になろうとあきらめないで。むしろ、楽しみなさい!!」

…帰りのホームルームが終わった。私は野球選手の盗塁・陸上選手のクラウチングスタートみたいに、「一刻一秒も早く」と考えて、走り出した。走ってる時にバレンタインデー心得③を思い出す。

「普段見られない自分の姿、相手の姿が極限状態の中で生まれる。それが見えたとき、あなたはその勝負に勝つわ。本当に必死になった人しか見えないからね。」


長い髪が前へ後ろへバサバサと…運動部でもなんでもない私は体育だろうが、何だろうが本気で走ることなんかないが、今日だけは違う。自分でも走ると思ってなかったから髪なんか結んでこなかったけど。

「むっちゃん!!!!!!!」

エイリアンキラーがヌルヌル星人と対峙したように、大声を上げた。運動不足かな?声を挙げた途端に急に苦しくなって、うつむいた。大量の汗が私の頭を冷まし、そのことで私は我に帰る。…何やってんだ!こんなことをしたらまた、むっちゃんが怖がるじゃないか!私の一人よがりで走って、叫んで…気持ちいいかもしれないけど、そんなの…むっちゃんには怖いだけ。他の子だって、迷惑だったんじゃないのか?

「あ…あかね?」
呼ばれたけど、顔を上げるのが怖かった。10分走る事よりも、顔をあげて怖がられるのが嫌だった。しかし、むっちゃんは私の顔を覗いていう。

「大丈夫?」
「え?」
「だって…すごく疲れてるし。」
…覗いたむっちゃんの顔は珍しく表情があった。生意気さも消えて、素直に心配してる顔だった。

うん、大丈夫。…本当はそう言いたかったが、それを言う前にむっちゃんの手を取って歩きだしていた。げっそりとした人の満面の笑みはどことなく不気味だからね。今の私がそれをやったら台無しになってしまう。

(あかね宅)
今日はお父さんはもちろん、お母さんもお仕事で帰ってこない。普通の年齢の恋人なら…ということを部長は言ってたが、むっちゃんのお父さんとは顔なじみでそんなことはできない。

嫌なことを思い出しながら一人、紅茶を入れる。…むっちゃんは空気を読んでくれたのか、じっと座って待つ。

(10分後)
私は紅茶と自分が作ったチョコを盛り、むっちゃんに差し出した。

「作ったんだ。バレンタインだし…。」
「バレンタイン?」

むっちゃんはお母さんが早くに他界したこと、お父さんが油臭い仕事であるがゆえにバレンタインというものには無縁で育った。(幼稚園であったかどうかは知らないが、幼稚園というところはしょっちゅう菓子がもらえて、園児も意味を考えたりしないだろう。)

「そうね…女の子が好きな子のためにチョコを作る日って事。」
「好きって…?」
「大切って事。その子の守ってあげたいとか、元気でいて欲しいとか、仲良くして欲しいとか…そう思うなら男の子でも、女の子でも、お父さんでも、お母さんでも…そういう願いがあるなら誰に渡してもいいの。」
むっちゃんは珍しく、笑った。何を言われても、抱きしめても、露骨に笑ったことはないむっちゃんが言う。
「それなら、【大切】ならわかるよ。昨日、お父ちゃんに教わった。父ちゃんが「あかねちゃんとはガールフレンドなの?」って。それで「ガールフレンドって何?」と聞くと「大切な友達って事だよ」って言われた。」
あかねはここにきて、やっと自分に自信を持てた。自信をもって、やっと言いたいことが言える。
「じゃあ、むっちゃん。恋人ってわかる?」
「わかんない。」
「お互いが「好き」で「大切で」と思ってる人だと約束するの。約束してる事をみんなに「恋人だ」と言うことで、認めてもらうの。」
「じゃあ…僕、あかねの恋人になる。」
「うん、私も恋人になる。」

私はむっちゃんの唇を奪った。自分でも勝手に体が動いていたという他ないことなのだが…むっちゃんの口を舐めたときにほんのりと香るチョコの味が、私を無意識・衝動から開放していた。…そして、キスから意識的にむっちゃんの頭を撫でながら口元をもう一度、舐めまわした。