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かくいう私も青二才でね

知ってるか?30まで青二才でいると魔法が使えるようになるんだぜ?

ラノベ評論【神様のメモ帳】 杉井光

ラノベ

これのアニメの評論をやったところ【あれはオリジナルだから原作はもっといい】という声が私のブログ、ニコ動の本編映像に寄せられたため、原作を読みました。

ネタバレを含めるので、未読の方はご承知の上で読むかお帰りください!!

  • ラノベじゃないラノベ

私に言わせるとこれが素直な感想です。ラノベっぽくないのです。作りこまれた推理小説の側面が強いから。ただし、『文学の域に達しているか』と問われるとそれもNo!です。文学にしては雑ですし、ラノベにしてはやたらとリアル(グロも含めて)。

本日の論点

  1. 別にアニメにする必要がない(どこまで行っても小説)
  2. 無駄にリアルなキャラクター
  3. やっぱり、無理がある設定とシナリオ展開
  4. いいヒール・悪いヒール
  • アニメにしてみたいシーンがない

電撃文庫には申し訳ないが、なんでアニメ化する事が多いラノベの世界で神様のメモ帳なる作品が出たのかが僕にはわからない。
岸田メルさんのイラストで十分足りる。2007年に出たラノベだが、挿絵について言えば今ピクシブ・ニコニコ静画・各種アマチュア絵師が影響を受けているのがよくわかる。…廉価コピーになっている人がほとんどだけどね。(※初期の作品を見たこともなかった。あと同じキャラをいろんなバリエーションで書いているところも見たことなかったのでいい勉強になった。)

話を戻します。

アニメにするには次の条件である。

  1. 序盤の展開の速さ
  2. 動きがあるアニメシーン(アクション、3D、メカなどの作画の見せ場がない。むしろ実写のほうがいいかも。)
  3. 極力テレビ的なコンプライアンスに引っかからない(グロだったり、背徳的な主人公の行動だったり)
  4. キャラが少なめ。多くても相関関係やメインサブがわかりやすい。
  5. 絵にしたほうがわかりやすいシーンがある。(時制が複雑・図や絵が必要・動きがわからんなど)

逐一説明すると長くなるので、好例を1つ上げましょう。
涼宮ハルヒの憂鬱の場合はこの全部を満たしています。序盤からヒロインのハルヒというキャラが常に主人公キョンを振り回す。アニメは毎回それなりに面白くないといけないけど、ハルヒの行動だけで楽しめるとその問題がすんなり解決する。動きについてはハルヒの場合はカマドーマ・長門VS朝倉という宇宙人対決など見せ場は多い。アニメでしかできない動きがないなら実写でもいいのです。また、ハルヒのいいところはグロシーンが少ない。こぶし同士の殴り合いやリンチのシーンはほぼない。キャラの焦点はメインキャラがハルヒ・長門・キョンの3人であることが普遍的で、残りのSOS団、予備団員+妹と続きわかりやすい序列がある。最後に、ハルヒシリーズは時間を使ったSFなので、時間軸をどういじるかによってアニメの見方が変わる。アニメ化すると時系列順と原作順を分けて楽しむことができるので、ハルヒはアニメのDVD売上における優等生だといえる。

神様のメモ帳ははっきりといえば、全部ない。
まず、序盤100ページぐらいは伏線や設定説明なので、アニメ化するとこれを分散して説明するか圧縮しないといけない。(しかし、設定がわかりにくく複雑なので、それをやると今起こっているアニメ化の失敗の指摘を受ける。)
次にアクションシーンだが、アクションと呼ぶだけの実力伯仲の対決がない。あるにはあるが、味方同士で本筋に影響がないのであまり意味がない。
グロがテレビ規制に引っ掛かる懸念はこのアニメには多い。主人公が露骨に違法行為を2回やるし、リンチのシーンもある。(しかも、これが本筋に影響する)
次に、メインキャラがわからない。たぶん多くの人はアリスというのだろうけど、主人公と仲がいい人で言えばテツ先輩(パチプロ)だろうし、話が通じて歯止め役になるのであればヒロさん(ヒモ男)やミンさん(ラーメン屋の店長)なのだがそこらへんがいまいちわかりにくい。本編への影響力で言えば、4代目がメインという解釈だってできなくもないし、彩夏がヒロインであれば、こんな空気なヒロインもないけど、主人公の思い入れで言えば、彩夏が一番あるわけで…。
わざとアニメにして説明の要るシーンは…ない。文字の説明をその都度紡いでいくほうがずっとわかりやすい。

  • リアリティーあるキャラクター

このノベルの評価できる点は何と言っても『ストーリー展開で重要な要因を調べぬいている』事です。
具体的には薬物の禁断症状や薬物の作り方はもちろん、ニートに陥りやすい人の話、コミュ障気味な学生やその人の思考法、おせっかいな女の子(妹)、女子っぽい怒り方、一部の医療知識。

当たり前のようで、これがちゃんとできていない人が多い。先日、女子力についての文を書いた時に『世界を回って貧富の差に気付いたからお金持ちと結婚する』ことが人生の目標である哀れな女の話をしましたが、そういう風に自分以外の人間の気持ちや幸福を理解しないで思い込みで飲み込んでしまう人が作家にもいます。…まぁ、禁書目録なんですけどね。

その意味でキュンとくる文章を書く。テツ、ナルミ、彩夏の3人は非常に心理描写がリアルで読んでいてわくわくするシーンがある。渋谷界隈を歩いていると本当に会えそうな感じするね。聖地予想に関しては注釈に書いておいたので、そちらをご参照ください。*1

  • 設定とシナリオの矛盾はやっぱりある。

個人的に思うことだがこの人は実話を書くライターなら優秀だと思う。しかし、フィクションを作る作家としては詰めの甘さを感じる。
細かいところを述べるといろいろあるのだが、ここでは2つだけ。
1、主人公がリスクを冒して薬物に手を染めるシーンがあるのだが…これは正直なところなぜヒロさんか四代目が中毒者をつかってやらなかったのかが非常に気になる。(謎にかかわるから詳細は省きますが、薬がないと事件が解決できないシーンがあります。そこで、主人公が薬物に手を染めるのですが、これは成果を上げる確実性が低いのに、アリスやテツが許可した理由が読んでいてさっぱりわからなかった。)
2、アニメに比べて暴力団とのかかわりが深く、アリス自身が『業務契約を結んでいる』と明言している。この設定は警察がテツさんに事件の情報を渡すことと大きく矛盾する。つまり、暴力団に捜査情報を流出することを承知で警察が情報提供していることになるから暴力団の私的制裁(リンチ・かたき討ち・落とし前)を容認することになるからありえない設定なのです。*2

キャラ設定については原作で『皇居でテロが』とか『靖国で会おう』という発言をしていたミリオタこと少佐はやっぱりミリオタとしておかしい。作者にもミリオタとしての資質というか、基礎知識はあるらしく『大東亜戦争』をナルミにさせるシーンがある。(一般的には太平洋戦争か日中戦争を包括して『(先の)第二次世界大戦』という言い方が多い敢えて帝国政府が採用し、GHQが禁じた名称を使う事が証拠です。)

私はミリオタではなく歴史オタクだが、戦前の戦士に敬意を表さない表現が多いこの人をミリオタと認めたくない。(歴史オタクは武器に詳しくないけど歴史背景には詳しいミリオタってやつで…。)←ミリオタじゃない根拠は一番好きなのが戦国〜江戸時代の人の話だからです。

  • 悪役論・正義論

今回の本編ともいえる話をします。この話の最大の欠点は『悪が空虚』であることです。


原作者が原案のアニメ1話を見た時点である程度想像がついていたことですが、作者はどうやら『フィクションの悪』と『現実にいる悪』の分かれ目がついていないらしい。

日本人は昔から悪役や敗北者に独特の美学・哲学を持たせることでビターエンドであったり、考えさせられるバットエンドを作る作品を作ってきました。それこそが【フィクションの悪役】であり、この悪役の設定こそがストーリーの終盤の評価を決定づけます。

フィクションの悪役とは『正義の反対にある別の正義パワポケ7)』なのです。あるいは『ヒールであることに誇りを持って悪をなす悪』のどちらかです。
天元突破グレンラガンなんかは正義の反対の正義の好例ですね。ロージェノム、アンチスパイラルともに『自分が正しい』と思っていることをやった。そこで衝突するグレン団に倒された。だから、前半で出てきた悪役が後半で味方になったときにファンが多くて応援したくなる。…ジャンプファンなら『るろうに剣心』のキャラを思い浮かべてもらえるとわかりやすい。というよりも和月作品は武装錬金も含めて『悪役』についてはすごく工夫する作家で、むしろ悪役の方が好きになってしまう事もあるほどです。

悪だと開き直る悪党ならルパン三世が好例ですね。大悪党だから人殺しになろうが、金持ちが泣こうがわめこうがモノを取っていく。そういうお話ですよね。宮崎作品の中でも『ハウルの動く城』までの作品はこの傾向が強い。ハウルも荒地の魔女も自分が悪者扱いされている自覚と誇りがある。思い返してみてください。ナウシカ・ラピュタもののけ姫の悪役達を。もののけは視点をエボシに置くとかなり切ない話になってしまうのですが、ジゴ坊が悪役というか…強欲な悪い奴として見られる視点(アシタカ・サン・製鉄所の女の目線)で見れば、かなり悪びれ方として面白い。(※エボシも悪人の自覚はあるのだが、エボシの場合は『村の長』としての正義という言い方もできるから一筋に『神殺しの魔性の女』というキャラとも言えない。)

オタクに人気のある作品ならパンティー&ストッキングの主役二人か、禁書目録のアクセラレータを思い浮かべてみるとわかりやすいでしょう。

しかし、神メモの場合は悪役を踏み潰しても何の同情もわかないし、だからといって主人公に正義だと言える共感も持てない。

先程も指摘したとおり『ヤクザと業務提携』している以上は私的制裁なのです。おまけに悪の組織にいるわけでもないのに、急に当事者が最後だけ出てきて『○○の敵だ!!』と言う感じで薬物の禁断症状で弱っている人を殴り倒しておいて後で警察に捕まることもないのですから、はっきり言って変な話です。

おまけに『殴る権利がある』ような感じで殴ることについて何の悪びれもなく『俺達が被害者なんだから殴る権利があって当然』という論調だから困る。

この話の全般に言えることだが、社会の既存のものを作品に多く盛り込んでいる割にはなぜか法制度・社会常識だけは無視を決め込んでいるため、恐ろしくチグハグする。
ニートの定義を生き様だと言い張るのは自由だが、それは同時に『どういう生き様をニートと呼ぶか』説明しなければならない義務を負う。読み物とはわかるように書かないといけない以上、作者にはその責任がある。難解に作るのは自由だが、見返せばわかるような設定にしないといけないが、メモを取りながら読んだのにどこにも書かれていない。
よしんば書かれていたとしても、ニート探偵に雇用される正社員がメインの4人の登場人物であり、それぞれに違う生き様の人達だからこれまたおかしい。勧善懲悪を独自にやる事が彼らの正義だとすれば、それは私兵団やヤクザとそう変わらない。

いや、むしろ彼ら自身がヤクザとの提携を認めている時点でこれは極道の作品だと思わないと色々価値観の理解に苦しむのだが、アリスやナルミというキャラはどう見てもそういう感じがしないどころか、自覚もない。
『どうしようもない悪い奴』が現実にいても、その人を一々『被害者だから殴ってもいい』『ヤクザでも捕まえていい』という話になるとこれは余りにも話として無責任だ。

一方通行なんですよね。自分達と『その他の他人』がいて、自分達だけが幸せになればいいとか権利を行使できるとかそういう話になってる。
論理の飛躍だと言わせないために説明。ヒロについて言えば、『ヒモ』という設定を付けた時点で誰かがヒロの奴隷になっているわけだ。金も稼いでお世話もする奴隷。それで【ニートで生計を立てている】と言われてもそれは人の善意を踏み倒して生きている立派な悪です。
ヤクザとの業務契約もまた、同じで向こう側から見れば、警察に駆け込んだほうがマシの生き地獄を何の権限もない人にやられるのだからたまったものではない。薬物商人が悪い奴でも悪い奴が悪い奴を取り締まって、その上【俺たちは被害者なんだよ】とか言って、ヤクザの習慣である落とし前に高校生を参加させているのだから、薬物商はていのいい晒し者です。

…すごく主観的な作品です。【かきもの】として落ち着いて観察する分には何の問題もないのですが、このラノベを『神』だとか『文学』だとか言われると設定・道徳に関する問い詰めをしたくなりますね。あまりにも『排他的』に背徳心を感じない人間達の集まりで、真面目に働いている世の中の人・毎日毎日取引先や顧客のために仕事をしている人から見れば歪な作品です。(別に悪を叩くだけが正義じゃないんですよ。私がブログをかいて『あ、更新されてる』と読者の笑顔を見ることも正しい義なのですよ。コツコツと毎日誰かの幸せやいい意味の驚き・感動のために貢献する事こそが真の正義ではないでしょうか?神メモにはそういう価値観が欠落しているように感じます。)

…ミリオタならここらへんの道徳はわかって欲しかった。敗者が全部悪い訳じゃなくて、勝者の罪をも背負うときもあって、勝ち負けと善悪を混同してはならないという、人の条理を分かった上でラノベを作って欲しかった…。それがすごく切ない。一読者として。

追記
読んだからには手抜きのないようにきっちりと評論させていただきました。

こういう感じに【滅多斬りにされても良い】又は【こいつでも斬れない最強のラノベを俺は知ってる】【神メモのかたきをとる(゚´Д`゚)゚】という方はコメント欄に『おすすめのラノベはこれです』とかいて置けば、読むかもしれません。(ついでに感想もお願いします。反論も1巻の内容かアニメの話で答えられるものであればちゃんと返します。)


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神様のメモ帳 (電撃文庫)

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*1:手がかりを見た限り渋谷にかなり近いところ。川がどこかわからないけど、予想としては中目黒か恵比須だと思う。個人的には『広尾高校?』かな〜って思ってる。都民じゃない人に少し説明すると、品川から渋谷あたりまでは目黒川に沿うように山手線が通っていて、東急ハンズとマルイという地名を見る限りたぶん目黒川の内側の学校で、そうなると表参道か恵比須(広尾)が有力になる。表参道は青学しかないので、イメージとしては坂があって見下ろすこともできる広尾がいいのではないでしょうか?ちなみに、恵比須・広尾界隈は車でよく教習したところなので、立体的にどういう地理関係なのかはわかるので、そういうイメージです。

*2:新宿歌舞伎町交番という本を読めばわかるが、警察がヤクザを黙認している理由は『地下経済・地下社会における情報提供』が目的であって、何も警察側からヤクザに【あいつらを制裁してこい】という理由ではない。もっと言えば、それは東トルキスタンという中国の占領区域で実際に漢民族による私的制裁を認めているのだがそうなると無法地帯になって人権侵害が起こる。